顎関節症とは
顎関節症(がくかんせつしょう)とは、顎の関節や周囲の筋肉に異常が生じ、痛みや開口障害、顎の音(カクカク・ゴリゴリ)などの症状を引き起こす疾患です。通常は、顎関節の機能不全や筋肉の過緊張が原因となることが多く、症状が進行すると食事や会話にも支障をきたすことがあります。
現代では、生活習慣の変化やストレスが大きな要因とされており、特にデスクワークの増加による長時間の不適切な姿勢や、スマートフォンの使用による下向き姿勢が顎関節に負担をかけることが指摘されています。また、歯ぎしりや食いしばりといった無意識の習慣が関節や筋肉に大きな負荷を与え、症状を悪化させることもあります。顎関節症の症状に応じた適切な診断と治療を行い、患者さまの負担を軽減することを目指しています。
顎関節症の主な症状
顎関節症の症状は多岐にわたりますが、以下のような症状が見られる場合は注意が必要です。
- 口を開けると 顎関節が痛む
- 口を大きく開けられない(開口障害)
- 口を開閉すると「カクカク」「コキッ」という異音がする(関節雑音)
- 噛みづらい、噛み合わせがズレている感じがする
- 顎だけでなく、頭痛・肩こり・耳の痛みを伴う
これらの症状を放置すると悪化することもあります。気になる症状が続く場合は、早めに歯科医院に相談しましょう。
顎関節症の主な原因
顎関節症の原因はさまざまで、複数の要因が関係していることもあります。以下に、顎関節症の代表的な原因について詳しく説明します。
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歯ぎしり・食いしばり
歯ぎしりや食いしばりの癖があると、無意識のうちに顎に過度な負荷がかかります。特に就寝中の歯ぎしりは自覚しにくく、長期間続くと顎関節や咀嚼筋に強いダメージを与えます。日中でも、集中しているときやストレスを感じた際に無意識に食いしばる癖があると、これが顎の筋肉の疲労や関節の変形につながることもあります。
また、歯ぎしりによって歯が摩耗し、噛み合わせのバランスがさらに崩れることで、顎関節症が悪化する可能性もあります。
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噛み合わせの問題
歯並びが悪かったり過去の歯科治療によって噛み合わせが変化したりすると、顎の関節に負担がかかることがあります。特に、上下の歯が正しく噛み合わない状態が続くと、片側の顎関節ばかりに負荷がかかり、関節のズレや痛みが生じやすくなります。
また、噛み合わせの問題によって咀嚼のバランスが崩れると、顎の筋肉の疲労や緊張を引き起こし、症状が悪化することもあります。 -
ストレスや精神的緊張
精神的なストレスがかかると自律神経のバランスが乱れ、無意識のうちに顎の筋肉を緊張させることがあります。特に、ストレスを感じると食いしばる癖が出やすく、これが慢性的な顎関節の負担につながります。
また、ストレスが強いと睡眠の質が低下し、寝ている間に歯ぎしりをすることが増えるため、さらに顎関節へのダメージが蓄積されていきます。このように、精神的な要因も顎関節症の大きな原因の一つとなります。
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姿勢の悪さ
猫背やうつむきの姿勢が続くと首や肩の筋肉が緊張し、その影響で顎の位置がズレやすくなります。特に、長時間のスマートフォン使用やデスクワークによって、頭が前に突き出る姿勢が習慣化すると、顎関節や咀嚼筋に余計な負担がかかり顎関節症を引き起こすリスクが高まります。
また、姿勢の悪さによって首や肩の血流が悪くなると顎の筋肉も硬直しやすくなり、痛みや違和感を感じることが多くなります。
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外傷や事故の影響
スポーツ中の衝撃や転倒、交通事故などによって、顎関節やその周辺の筋肉・靭帯が損傷を受けることがあります。特に顎に直接的な衝撃が加わった場合、関節内部の軟骨(関節円板)がズレたり関節の動きに制限がかかったりすることもあります。
外傷の影響はすぐには現れないことがあり、しばらく経ってから痛みや違和感が出ることもあるため注意が必要です。
セカンドオピニオンにも対応
顎関節症の治療は症状や原因によってさまざまな方法があり、診断や治療方針に迷われる方も少なくありません。当院では、他院での診断や治療に対して「このままで良いのか不安」「ほかに選択肢はないのか知りたい」と感じている方のために、セカンドオピニオンのご相談も受け付けています。
患者さまが安心して納得のいく治療を選べるよう、わかりやすく丁寧にサポートします。お気軽にご相談ください。
顎関節症の治療方法
当院では患者さまの症状や原因に応じて、以下のような方法を組み合わせながら治療を進めていきます。
生活習慣の改善
食事の注意
顎関節に負担をかける硬い食べ物やガムの咀嚼を控えることで、顎の負担が軽減されます。また、食事の際には噛む回数を増やし片側だけで食べないようにすることで、顎の筋肉の緊張が和らぎます。さらに、顎関節症の症状があるときには、柔らかい食事を選ぶことで顎関節にかかる圧力を減らすことが期待できます。
姿勢の改善
長時間のスマホ使用やデスクワークによる猫背や前かがみの姿勢が、顎関節に悪影響を与えることがあります。適切な姿勢を保つことで顎の位置が正しく保たれ、筋肉の緊張を減らします。定期的に姿勢をチェックし、意識的に背筋を伸ばすことが大切です。
ストレス管理
日常的にストレスがたまると無意識に歯ぎしりや食いしばりを引き起こし、顎関節に負担がかかることがあります。ストレスを軽減するためにはリラックスできる時間を作り、深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を取り入れると効果的です。ストレス発散方法を見つけることが、顎関節の健康に大きく影響します。
理学療法
ストレッチ
顎周辺の筋肉(咀嚼筋など)の緊張をほぐすため、ストレッチを行います。これにより、顎関節の可動域が広がり筋肉の柔軟性が向上します。ストレッチには顎を軽く開けたり閉じたりする動きのほか、首や肩の筋肉をほぐす運動も含まれます。
マッサージ
顎周囲や顔面の筋肉をマッサージして緊張を緩めることで、血行が促進されます。特に、顎を動かす際に使われる筋肉(咀嚼筋や側頭筋)に優しくマッサージを施すことで、筋肉の硬直を防ぐことが期待できます。
顎関節の運動
顎関節を正常に動かすためのエクササイズを行い、顎の動きをスムーズにします。例えば、口を大きく開ける練習や左右に動かす運動を行うことが多いです。
温熱療法
温めることで血行を促進し、筋肉の緊張をほぐす方法です。温かいタオルを顔や顎周りに当てたり温熱パッドを使用したりして、筋肉の緊張を和らげます。
マウスピース療法
夜間の歯ぎしりや食いしばりを防ぐために、患者さま専用のマウスピース(スプリントやナイトガード)を作製します。このマウスピースは顎にかかる圧力を均等に分散させ、関節や筋肉への負担を軽減します。
当院では、マウスピース作製専用の「バキュームフォーマー」を導入しています。そのため、患者さま一人ひとりのお口にぴったり合ったマウスピースを短期間でご提供することが可能です。
薬物療法
顎関節症による炎症や痛みが強い場合、鎮痛剤や筋弛緩剤を使用して症状を緩和します。鎮痛剤は顎の痛みを抑え、日常生活の負担を軽減します。一方、筋弛緩剤は顎周りの筋肉の緊張を和らげることで筋肉の硬直を防ぎ、顎の動きをスムーズにします。
これらの薬物療法は症状を一時的に軽減するためのサポートとして使用され、根本的な治療と併用することが多いです。
噛み合わせの調整
噛み合わせが原因で顎関節症が引き起こされている場合、歯科医師が噛み合わせの調整を行います。具体的には、詰め物や被せ物の調整を行ったり必要に応じて矯正治療を施したりすることで、正しい噛み合わせを取り戻します。
噛み合わせが改善されると顎関節にかかる負担が減り、顎の痛みや違和感が軽減されます。定期的な歯科チェックを受けることで噛み合わせの不具合を早期に発見し、適切な治療を受けることができます。
外科的治療(重症例)
顎関節症が重度で薬物療法や理学療法では効果が見られない場合、外科的治療が検討されることがあります。外科的治療としては、関節内注射や手術が考慮されます。関節内注射では、ステロイドなどの薬剤を関節に直接注入し、炎症を抑えることで症状の改善を図ります。また、手術が必要な場合には、関節の修復や再構築が行われることがあります。手術方法には関節円板の再配置や人工関節の移植など、さまざまなアプローチが取られます。
これらの方法は、顎関節症の進行が非常に進んだ場合に考慮される治療法です。
顎関節症治療の流れ
STEP 01.
カウンセリング・診査
顎関節症の治療は、まず患者さまの症状や生活習慣を深く理解することから始まります。この段階でどのような痛みがあるのか、いつから症状が始まったのか、普段の食生活やストレスの影響なども伺います。
さらに、必要に応じて顎関節や歯の状態をより正確に把握するためにレントゲン撮影やCT撮影を行い、関節の形状や口腔内に異常がないかを確認します。これにより、顎関節の動きや骨の状態を客観的に評価できます。

STEP 02.
診断・治療方針の決定
診査結果に基づいて、顎関節症の原因を特定します。顎関節症は筋肉や関節の過度な負担、歯の噛み合わせ不良、ストレスなどが複合的に関与していることが多いため、原因に応じて適切な治療方針を立てます。
例えば、顎関節に負担がかかっている場合には、マウスピース療法が有効となることがあります。また、噛み合わせに問題があれば、それを改善するための治療計画を提案します。患者さまに治療内容を十分に説明し、治療方法に対する理解と同意を得たうえで、最適な治療法を決定します。

STEP 03.
治療の実施
お電話またはWEBにて、お悩みの内容と来院のご治療は患者さま一人ひとりの症状や状態に合わせて進めていきます。まず、最も効果的な治療法を選択し、マウスピース療法や生活習慣の改善を組み合わせることで症状の軽減を目指します。
また、必要に応じて薬物療法を取り入れ、患者さまの症状に最適な方法で治療を進行します。各治療は患者さまの反応や状態に応じて調整し、効果的な改善が得られるようサポートを行います。希望日時をお伝えください。

STEP 04.
経過観察とフォローアップ
治療後は定期的に経過を観察し、症状の改善状況を確認しながら必要に応じて治療内容の見直しや調整を行います。
また、治療中に気になることや不安があれば患者さまからの相談を受ける体制を整え、随時フォローアップを行います。長期的な改善を目指して、症状が落ち着いた後も生活習慣の改善やストレス管理を続けることが大切です。さらに、治療終了後は顎関節症の再発を防ぐために、定期的なチェックや予防策の継続をお勧めします。

健やかな毎日を目指して、今こそ顎のケアを
顎関節症は、顎の痛みや違和感、口を開けるときの不快感などの症状が現れ、放置すると悪化して日常生活に支障をきたすことがあります。進行するとさらなる痛みや顎の動きが制限されることがあるため、早めのケアが大切です。
当院では、顎関節症の治療経験が豊富な歯科医師が診察を行い、一人ひとりの症状に合わせた最適な治療をご提案します。顎の違和感や痛みが気になる方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
急な外傷にも対応可能な「スポーツ歯科」
体育や部活動など、スポーツ中に起こる歯の怪我は、早めの処置がとても大切です。当院は学校歯科医として日頃から外傷のケアに携わっており、歯の打撲や折れ、脱落といったケースにも適切に対処しています。
また、スポーツ中の怪我を予防するために、カスタムマウスガードの製作も行っています。市販品では合わない、話しにくい、呼吸がしづらいと感じる方にも、快適な装着感と高いフィット性のあるマウスガードをご提供します。スポーツをされる方の歯の健康と安全を守るため、どうぞお気軽にご相談ください。
D-function
顎の動きを整える新しい機器
D-function(ディーファンクション)は、顎や口まわりの筋肉にやさしい電気刺激を与え、バランスを整えるためのリハビリ用医療機器です。 咬むときに使われる「咬筋」や「こめかみの筋肉(側頭筋)」に、左右同時かつ均等な刺激を与えることで、凝り固まった筋肉をほぐし、自然でスムーズな顎の動きを促します。
口が開きにくい、噛むと痛いといった顎関節症の症状にお悩みの方、入れ歯が安定しにくい方、咬み合わせのバランスを整えたい方に効果が期待できます。 高齢者や術後のリハビリにも使用されており、口腔機能の維持・回復に役立ちます。使い方もシンプルで、専用のパッドを頬やこめかみに貼るだけ。痛みや不快感もほとんどなく、安心して治療を受けていただけます。
適応症例と臨床的な効果
D-functionは、以下のような症状やケースに効果が報告されています。
- 顎関節症(TMD)による咀嚼筋の痛みや開口障害
- 咀嚼筋の左右不均衡や筋緊張異常
- 義歯装着後の筋機能トレーニング
- 顎位安定を目的とした咬合再構築の補助
- 高齢者や術後の顎機能リハビリ
特に「電気刺激療法によるTMD患者の筋緊張緩和と疼痛軽減」(Journal of Oral Rehabilitation, 2012)では、筋硬度の低下・疼痛の軽減・開口量の増加が確認されています。
また「EMSを用いた咬筋機能トレーニングが義歯使用感に与える影響」(日本補綴歯科学会雑誌, 2017)では、義歯の安定性や咀嚼効率の改善にも有効と報告されています。
さらに、高齢者を対象とした研究(Gerodontology, 2015)では、定期的なEMS刺激が咀嚼筋力の維持やオーラルフレイル予防に寄与することも示されています。
科学的根拠に基づいた安全な治療
D-functionは、理学療法や神経筋電気刺激療法(NMES)の歯科応用をベースに開発され、刺激波形・周波数ともにエビデンスに基づいた設計がされています。
複数の研究で筋緊張の正常化、疼痛の緩和、開口量の改善といった臨床的効果が報告されており、信頼性の高い補助治療機器として注目されています。 顎の痛みや筋肉のこわばりに対し、薬や外科的処置に頼らず、自然な筋活動の回復をサポートできる安全なリハビリテーション機器です。
顎関節症のよくある質問
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顎関節症は治療しないとどうなりますか?
顎関節症を放置すると症状が悪化し、慢性的な痛みや顎の機能障害を引き起こすことがあります。さらに、歯や顎の変形が進み日常生活に支障をきたす可能性があるため、早期に治療を開始することが重要です。 -
顎関節症の予防方法はありますか?
顎関節症を予防するためには、ストレスを減らすことや、歯ぎしりや食いしばりを防ぐためのマウスピースの使用が効果的です。また、正しい姿勢を心がけたり、硬い食べ物を避けて顎に負担をかけないような食生活を意識することも役立ちます。
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顎関節症の治療にかかる期間はどれくらいですか?
治療期間は症状の程度により異なりますが、軽度の場合は数週間で改善することがあります。一方で、重症の場合は数ヶ月にわたる治療が必要になることもあります。治療の進行状況に応じて、適切な方法を選択しながら進めることが重要です。
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顎関節症は手術が必要ですか?
顎関節症において、手術は通常必要ありません。保存的な治療法で改善するケースがほとんどですが、重症や薬が効かない場合には手術が選択肢となることもあります。まずは歯科医師と相談し、適切な治療法を見つけましょう。
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顎関節症に対して自宅でできるケアはありますか?
自宅でできるケアには、アイスパックや温湿布を使った温冷療法、簡単な顎のストレッチやマッサージなどが効果的です。ただし、専門家の指導を受けることが推奨されます。また、硬い食べ物を避けることや、日常生活で顎に負担をかけないように注意することも重要です。
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顎関節症と歯ぎしりは関係がありますか?
はい、歯ぎしりは顎関節症の原因の一つです。歯ぎしりや食いしばりが頻繁に行われると、顎の筋肉に過度の負担がかかり、顎関節症を引き起こすことがあります。この場合、就寝時にナイトガードを使用することで負担を軽減できる可能性があります。